Feature
企画会議室 STUMP MAGAZINEの西山徹と
NONLECTUREの持田剛による企画会議
今年3月にオープンするアートブックショップ兼ギャラリー「NONLECTURE books/arts」(ノンレクチャー ブックス&アーツ)にて、STUMP MAGAZINEが主催するエキシビションの企画会議を開催しました。西山徹と店主の持田剛さんによる対談形式でその模様をリポートします。

西山徹(以下TET)

持田くんとはそれなりに長いお付き合いです。昔やっていた「Philosophy Store※1」からだから、かれこれ20年も経ちますね。この度は「NONLECTURE books/arts」というブックショップ兼ギャラリーが立ち上げということですので、改めて「NONLECTURE」の名前について、教えてください。

持田剛(以下MOCHIDA)

そうですね。この名前については、もう何度も人に聞かれているんですけど、そのたびにやっぱり一番大事な話だなと思って、毎回ちゃんと話すようにしています。「NONLECTURE」という言葉自体は、現代詩の巨人と呼ばれているE. E. カミングス に由来します。1952年、彼はハーバード大学に招かれて、六回の講義を行うことになりました。いわゆるノートン講義という、かなり格式のあるシリーズです。普通こういう講義だと、創作論や詩の技法の話になることが多いと思うんですが、でも、カミングス本人はそういう話をほとんどしなかった。講義の場で、「詩はこうやって書くものだ」とか、「この技法が重要だ」といった話はほとんど出てこない。ただひたすら、自分がどんなふうに生きてきたか、どういうことを考えながら世界と向き合ってきたのか、そういう話を淡々と続けていくんですね。その講義録は、のちに『i: six nonlectures』というタイトルで出版されます。僕自身もその本を手に入れて読んだんですが、内容もさることながら、何よりその姿勢に強く惹かれました。何かを教えようとしない。方法論を渡そうとしない。ただ、自分の生き方や態度だけを差し出している。その距離感がすごくいいなと思ったんです。今回、自分のお店というか、場所を立ち上げるにあたって、名前をどうするか考えたときに、真っ先にこの「NONLECTURE」という言葉が浮かびました。ここでは何かを教えたり、レクチャーしたりするつもりはない。でも、誰かの考え方や選択の痕跡には触れられる。そういう場所にしたいな、と。

E.E.カミングスがハーバード大学で行った講演を記念して発行された『SIX NONLECTURE』。持田さんが感銘を受け、店名の由来となった一冊。

TET

なるほど。いいですね。名前の由来。個人的に大好きです。では「NONLECTURE books/arts」という空間、環境についてのコンセプトはどうですか?

MOCHIDA

コンセプトを考えるうえで、すごく大きなヒントになったのが、建築家の青木淳さんの著作にある『原っぱと遊園地』という考え方でした。そこに書かれている内容が、今の日本の空間のあり方をすごく的確に表しているなと思っていて。青木さんは、日本の建築や都市空間の多くが、遊園地のアトラクションみたいになっている、と言うんですね。つまり、最初から用途や楽しみ方が決められていて、利用者はそのレールに沿って動くだけ。一方で「原っぱ」というのは、そうじゃない。

TET

ドラえもんに出てくる、あの空き地みたいな場所。

MOCHIDA

そうです、そうです。土管が置いてあって、のび太が寝転んで昼寝したり、ジャイアンが突然リサイタルを始めたり、野球をしたり。何をしてもいいし、何もしなくてもいい。遊び方が完全に自由な多目的広場みたいな場所。僕は「NONLECTURE books/arts」を、そういう原っぱ的な空間にしたいと思っています。書店でもあるし、ギャラリーでもあるし、イベントもできる。でも、どれか一つに限定されない。来た人が、その時々でどう使うかを決められる余白がある場所。

TET

本棚の周りで寝転んで本を読んだり。

MOCHIDA

そうそう、海外の本屋ではお馴染みの。「NONLECTURE books/arts」では本棚は入り口側の壁面に大きなものを設ける予定なので、真ん中は割とすっきりした空間になると思います。ただ、何をする場所なのかを一言で説明できない、という状態は意識的に残したいなと。

TET

空間の設計は、デザイナーの方がいらっしゃるんですか?

MOCHIDA

はい。元D&DEPARTMENTにいらした鈴木工藝社※3さんにお願いしています。全体のトーンとしては、鉄骨の柱に塗られている錆止め塗料の色を基調にしよう、という話になっていて。

TET

あのサーフェーサーっぽいバーガンディ色ですね。

店内の色調には鉄骨の錆止め塗料であるバーガンディを用いて。

MOCHIDA

そうなんです。あの少し工業的で、でも温度のある色が、この場所には合う気がしていて。それから、メインの本棚は、元メッセンジャーで、今は木工作家をやっている佐々木毅さんに作ってもらっています。中央のスペースは、ギャラリー的に作品を展示できるようにして、対面側の壁にはヴィンテージのポスターを飾る予定です。奥のスペースには、今回の出店を支援してくれたゴールドウインの世界観を反映した展示作品と、そのブランド哲学にリーチする選書として、自然科学や自然思想に関するアートブックが並びます。

TET

そしてこの度、「NONLECTURE books/arts」と「STUMP MAGAZINE」とで何かやりましょう、という企画会議ですね。何かアイデアはありますか。

MOCHIDA

そうですね……どんなことがこの場所に相応しいのか、まだ完全に定まっているわけではないんですけど。例えば、徹さんが個人的に関心を持っている方をゲストに招いて、パブリックインタビューみたいな形は面白いんじゃないかな、と思っています。徹さんって、本当に興味のウイングが広いじゃないですか。ファッションだけじゃなくて、写真、アート、音楽、建築……。その関心の向く先にいる人と、普通に話しているところを、みんなが横で聞いている、という感じ。

TET

公開対談、みたいなことですかね。前にも何度かやったことはあります。持田くんが居たときの「BOOKMARC」でも写真家の鈴木親※4君とハニカム編集長の鈴木哲也※5さんとでやったことがありましたね。

MOCHIDA

そうですね。親さんとか、すごく合うと思います。話も盛り上がりそうですし。他にも、徹さんのネットワークで言えば、滝沢さんとか、スケートシングさんとか。聴講している観客も、場合によっては参加できるような、パネルディスカッション的な形になっても面白いかもしれない。それから、参加型という意味では、シルクスクリーンのワークショップも考えられますよね。

TET

そうでしたね。SIGNパブリッシュメント※6で平野太呂※7さんの写真集のリリース展覧会の際にもいろんな企画※8がありました。

MOCHIDA

あれは感慨深かったですよね。ああいう体験って、ただ作品を見るだけじゃなくて、場の空気ごと記憶に残る。それから「NONLECTURE books/arts」が書店であるという意味合いを考えると、STUMP MAGAZINEのタブロイドペーパーを発行するのも良いんじゃないかなと思っています。

TET

タブロイドペーパーの制作。いいアイデアですね。STUMP MAGAZINEとしても、サイトが出来上がる以前、パイロット版でタブロイドの0号を出しているから、次に出せば1号になる。

西山がかつて発行していたフリーマガジン『PHILOSOPHY ZINE』。持田さんも選書の連載ページを担当していた。

MOCHIDA

あと、これは完全に余談なんですけど……最近では色々な本も出版されたりして再評価の声が高いですが、僕、90年代の若い頃『刑事コロンボ※9』のVHSを集めていた時期があって。家にイギリス人の友達が泊まりに来たときに、「なんでお前こんなの集めてるんだ」って、ちょっと笑われたことがあるんです。彼にとっては、『刑事コロンボ』なんて年寄りが観る娯楽みたいな感覚だったみたいで。でも日本人の僕らからすると、あの哀愁とか一つ一つの仕草や台詞が妙に心に残るじゃないですか。そういう「個々人にとってはすごく大切だけど、外から見ると価値が分かりにくいもの」を紹介する企画ができたら面白いな、と思っていて。

TET

なるほど。「当事者」。かなり飛躍しちゃいますが、クライテリオン※10的な見せ方なのかな。「映画関係者が選ぶ◯◯」みたいな。ファッション関係者としてこれまでのシーンについて何も触れてきてないですね。そうなると。選書とかになるのかな。PHILOSOPHY ZINEで持田君や藤原ヒロシさんにやってもらっていたような。

MOCHIDA

まさに、ピッタリですね。これはぜひ実現したいなと思っています。

TET

公開対談、シルクスクリーンのワークショップ、映像作品の上映会、音楽ライブ、タブロイドペーパーの発行、それにクライテリオン的な企画。それら6つのエキシビションを一つのパッケージにして、全6回構成の「SIX EXHIBITION」として開催したら、店名の由来になった「SIX NONLECTURE」にも自然につながりますね。

MOCHIDA

それはナイスアイデアですね。仕込みはかなり大変そうですけど……でも、実現したら、きっと楽しいことになりますよ。

…つづく


※1 Philosophy Store 2006年から2008年頃にかけて西山徹が実験的にディレクションしていた書店でありサロン的空間。モノを売るための店ではなく、それまで影響を受けたモノゴト、カルチャーを共有するための空間で、のちに『PHILOSOPHY ZINE』としてフリーマガジンを発行していた。

※2 E.E.カミングス 20世紀アメリカを代表する実験的な詩人。文法や大文字・小文字を意図的に壊した詩の書き方が特徴。

※3 鈴木工藝社 D&DEPARTMENTの思想的文脈を背景に、コンセプトや哲学を空間として成立させてきた設計・デザインの会社。

※4 鈴木親 日常の風景や身近な人・物事を被写体に、自然光を生かした静かな写真表現を特徴とする写真家。

※5 鈴木哲也 雑誌・書籍・ウェブを横断しながら、ファッション、デザイン、カルチャー領域を中心に編集活動を行う編集者。2005年にスタートしたHONEYEE.COM元編集長。

※6 SIGNパブリッシュメント DESCENDANTがプロデュースする出版レーベル。平野太呂の写真集『I HAVEN’T SEEN HIM』を2019年に出版。

※7 平野太呂 スケートボードカルチャーをバックグラウンドに持つ写真家。主な写真集に『POOL』『Los Angeles Car Club』等。写真家としての活動のほかに自身のギャラリー「No.12 Gallery」を運営する。

※8 いろんな企画 平野太呂の写真集『I HAVEN’T SEEN HIM』リリースを記念し、展覧会やスケートボードビデオ『ANIMAL CHIN』の上映会、トミー・ゲレロのライブ、シルクスクリーンのワークショップなどを開催した。

※9 刑事コロンボ 1971年から本格的にシリーズ化されたアメリカのテレビドラマ。ピーター・フォーク主演。ロサンゼルス市警・殺人課に所属する一見冴えない風貌のコロンボ警部が活躍するストーリー。

※10 クライテリオン 正式にはクライテリオン・コレクション社。米国の映像ソフトメーカー。主に歴史的に重要な映画のディスクを販売することを社業としている。

「NONLECTURE books/arts」
OPEN:2026年3月13日(金)
営業時間:11:00–21:00
住所:東京都渋谷区宇田川町16-9 渋谷ゼロゲートビル B1F

公式サイト:https://nonlecture.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/nonlecture_books_arts/

詳細はNONLECTURE公式サイト / Instagramをご覧ください。

「NONLECTURE books/arts」ではSTUMPのTシャツをはじめ、その他のアイテムも展開いたします。

持田剛

洋書アートブックの仕入れ、選書、国内外の作家の写真展、アートエキシビションのキュレーション、出版イベント、サイン会等のアレンジを広く行う。1998年よりタワーレコード渋谷店7Fにあった「TOWER BOOKS」のマネージメント、2008年より「代官山蔦屋書店」準備室の洋書仕入れ、2014年よりファッションブランド「MARC JACOBS」が手掛けるブックストア「BOOKMARC原宿」のディレクションを行う。2026年3月、渋谷スペイン坂に「NONLECTURE books/arts」を開業。

photo: Tomohiko Tagawa

text: Nobukazu Kishi

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