やってみる。
東京は原宿、表参道の路地を入って少しのところに『DESCENDANT』のショップはあり、さらにその奥に構えられた『DEN』と呼ばれるスペースでTHINC PROJECTは展開されている。
THINC PROJECTが始まったのは2021年のこと。
この『STUMP』のディレクターであり、アパレルブランド『WTAPS』と『DESCENDANT』のディレクションも務める西山徹が中心となって行っているプロジェクト。
それはアパレルブランドではなく試みであり取り組みで、考える(Think)会社(inc)でTHINC PROJECTと名付けられた。
その主題はものづくりでどうしても生まれるロスから発生する生地やサンプル、ひいては一見何も問題がなさそうなものでも微細なキズや汚れでA品から弾かれてしまった“訳アリ”のものなどにセカンドチャンスを与えるというもの。


DENに展示されるTHINC PROJECTのほとんどのアパレルには洗いとアメリカ製のドライヤーシートを添えたタンブラー加工が施されていて、新品のものとは異なる風合いに仕上げられる。そうしたものが並ぶ空間はどこか古着屋のようでもあり、誰かのクローゼットのようでもある。

それらTHINCが普通のアパレルとは異なるまた別の点が、それぞれのアイテムにコメント入りの下げ札が添えられていること。そこにはものの個性やエピソードなどがディレクター本人の言葉でつづられている。

西山によるキャプションは、日本語と英語の両方が。手に取った服が、文章を読んだ後だとまた違った顔を見せてくれるのが楽しい。
「CD全盛期の時代、タワーレコードのサウンドトラック売り場に行くと、1枚1枚のCDに小さい紙が入っていたんですが、そこには店員さんのコメントがぎっしり書いてあって。かけがえのない情報でした。いまだに捨てずに取ってあるものもあります。そういう体験ができたのはあの時代ならではだったと思うし、それをやっていた人たちの本当に映画や音楽が好きだという気持ちが伝わってきました。THINCでもそういう体験をつくりたかったんです。それを見た人がひっそりとした楽しみになって、お店に通ったりする理由になったらいいなって」。

現段階でTHINCのベースとなる素材は自社でつくった関連製品がほとんどだが、将来的には社外の資材も扱えることを目指しているという。形も服だけにとどまらず、バッグやユーズドのハンガー、機会によってはリメイクされた家具などもあったりとTHINCで扱う対象は幅広い。しかし、すべてに共通しているのは自分たちが日々の営みの中で見ているものを題材に、一度はロスになってしまいかけたものにどうやって新しい面白さや楽しさを与えるかを考えること。「環境のためにと声をあげて社会へのメッセージを発信する前に、自分たちのできる範囲のことを発信していこうと。だから、自分たちでつくったものに第二のライフステージをつくってあげたりすることは僕らの使命だろうなと思います」。

2014年にブランドが始まったころから、DESCENDANTの品質表示のタグにはこんなメッセージが添えてある。
“Please hand me down to the next generation.”
“使わなくなったら、次世代に受け継いでください”。そう記されていたことを思うと、THINCの考え方の源流はだいぶ前からすでにあったのかもしれない。

DENの壁には近しい人々と、その家族たちのポートレイトがたくさん並ぶ。人の絆の中で、ものや気持ちが受け継がれていくようにという静かな想いを感じる。
生まれたアイデアを
すぐかたちに

この冬、THINCはWTAPSのアイテムに初めてフォーカスする。
ワケあってTHINCというプロジェクトに降りてきたWTAPSのウェアに新たな個性を宿して、もう一度ステージに上げるために。
襟を外してみるのはどうだろう?
前開きのファスナーは外して、袖口ももっとシンプルに。
背中にはスクリーンでプリントを。
完成形や着地点を定めずに、目の前の洋服を前にしながら実際にハサミを入れて、手を加えていく。
結果的に日本の羽織のようなたたずまいに落ち着いたのは、その過程の中で半纏をイメージするようになったから。



古参のスタッフと服を挟んで意見を交わす。スタジオでは、これがいつも通りの光景。
「前からWTAPSにはクルー用の揃いの半纏があります。昔は皆でそれを羽織って酉の市や初詣に行ったり、新年の初売りにはお客さんをお迎えしたりと、半纏とWTAPSは密接なんです」。
フロントがマグネットで閉じる、和洋が混ざったポリエステルタフタの半纏は原型とはまったく異なる仕上がり。

アイデアが定まると解体し、縫合して形にしてゆく。仕上がり直前にトルソーに着せて。
「結局は、こうやってる時間が好きなんです。切った貼ったの感覚でアイデアを出して。本当にみんな上手だし、知識もあるし仕事が早いから成り立つやり方で、それは僕にはできないことだからすごく尊敬しています。そうやってできた服を面白がってくれる人たちがいて、それがまた自分のインスピレーションにもなる。崇高なテーマもスケールの大きさもないけれど、こういうことが面白くてTHINCをやっているような、そんな気もしています」。

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HANTEN JACKET / POLY. TAFFETA. THINC PROJECT
COLOR: BLACK
PRICE: ¥49,500
WTAPS/THINC は、2025年12月19日(金)より、以下の店舗にて発売いたします。
・WTAPS® (W_Lab) AOYAMA
・WTAPS® (W_Lab) Kyoto
・Descendant Tokyo内 “Den”
本商品は店舗限定販売となります。
なくなり次第終了となりますので、あらかじめご了承ください。
photo: Asuka Ito
text & edit: Rui Konno

