地球への帰属意識 By RipZinger


Photo Justin Turkowski
僕がキミ・ワーナーに出会ったのは、パタゴニアのアンバサダーミーティングだった。世界中から集まったアンバサダーたちは、普通の人とはちょっと違って、みんなキラキラとした笑顔で、目には野生の強さがあったり、優しさが滲み出てるように感じたよ。まるで自然界に英才教育を受けている生徒たちみたいで、謙虚でパワーにあふれていたんだ。

レンボガン島のスポットに向かう途中ボートでのキミとボク。
ロッククライマーやサーファー、釣り師、セーラーなど、いろんな分野の達人たちが集まっていて、彼らの中にいると、本当に動物園にいるような気分になったよ。そんな独特の雰囲気の中で、キミに初めて会ったんだ。

スノーケリング中のキミと鯵と見られる魚群。
Photo Justin Turkowski

水中で見るキミの姿はまるで実在する人魚の様で、言葉にするのは難しいけど、陸に生きる人間が海に潜っているのではなく、海の世界で生きる生物が陸で人間の姿をして生活している様に思えたというか。彼女の海の中での姿は人間離れしているように見えた。ゆっくり大らかにエイかの様に動き沈んでいく。海底に着くと微動打もしない。しばらくすると、好奇心を持った魚たちが彼女の周りに寄ってくるのが見えたんだ。
そして、最小限の動きで狙いを定めて魚を仕留める。他の人たちは、魚を追いかけて、むやみやたらに乱暴な動きをしていて見るからにバイブスが荒い。それに比べてキミは穏やかでお魚達の世界に溶け込んで対話しているかの様にも見えた「今日はあなたをいただくわね」。そんな彼女の芸術的ダンスの様な美しい振り舞いを見て感激したことがあったんだ。

ボトムに身を沈め、身を環境に溶けこまし機会を伺うキミ。
Photo Justin Turkowski
小さい頃、家族が本当に貧しかったらしく。お父さんは食べ物を調達するために海に潜っていたそうで、キミも5歳の時にお父さんの背中に乗って一緒に潜っていたんだって。それが彼女にとって水中世界への初めての出会いだったんだよね。
一緒に潜っていたときに気持ちよさそうに泳いでる魚の姿を見て楽しんでたら、お父さんが打ったヤリがグサッと。「なんでその魚を殺したの?かわいそう」って思ってそれを言ったら、お父さんは「その魚がどれだけ良い人生を送ってきたか知ってる?」と言ったんだって。
「その魚は海を自由に泳ぎ回り、友だちと遊んでいたんだよ」と。そこでキミは「それがわかるから、殺すべきじゃなかったんじゃない?」と言ったら、お父さんは「でも、その魚は色とりどりの世界で生きて、たくさんのことを経験できてたんだよ」。ただ今日が彼にとって「ONE BAD DAY / その魚はたった一日の不運を経験しただけだよ」と。彼は「もし自分は華やかな人生を過ごせた上に一日だけ不運な日がくるとしても、僕はそんな人生を選ぶよ」と父。それを聞いて、キミは美しい魚たちの命を奪うことについて深く考えるきっかけになったと話してくれたよ。
「正直、野生では、私たちがそれに関与しているかどうかにかかわらず、それが自然のルールなの。アフリカでライオンがケープバッファローを襲うのを見たことがあるけど、それは正に”悪い日”よね。素敵に捕まるわけでもなく、脳にナイフを刺して苦しみを最小限で終わらせるわけでもなく。生きたまま食べられてしまう酷さ。生きていて、一日だけ悪い日がある。それが自然の一部なのよね」と。
一時帰国中に友人のTETと食事をしているとき、アメリカにいる間は仲間の家族の為に僕が料理をしているという話をしたことがあった。そのとき、幼い頃から魚好きだった9歳になる彼の息子は、釣りはもちろんのこと、自らが釣った魚を料理することにも熱中していて、寿司屋に行けば板前さんが魚を捌くのを身を乗り出してまで見たり、釣りのない日は近所の魚屋で「切り身ではなく魚一匹を丸ごと買ってきて」と注文してくるほどの魚好き、料理好きという話で盛り上がった。
僕はそのときからキミの魚への意識や海との向き合い方とTETの息子の意欲をどうにか出合わせたいと思っていた。
そして数ヶ月後、僕がハワイに住んでいたとき、そのチャンスが来たんだ。キミもTETの息子の話に興味を持ってくれて、一緒に潜る予定を立ててくれたんだ。でも当日になってみると残念ながらキミの体調が悪くなってしまったから一緒に潜る予定はキャンセル。お詫びにキミが前日に獲った魚を譲ってくれることになり、僕がそれを取りに行くことになった。
そして僕の親友のビックウェーブサーファー、コール・クリステンソンの家で集合させてもらうことになった。
家族が到着して、子供たちがパパイヤを木からとったり、人がいないプライベートビーチで安心してシュノーケリング。ハワイの海、そこに泳ぐ魚達に挨拶。ローカルの子どもたちと脚立を海に持っていって飛び込んで遊んだりとハワイらしい遊びを存分楽しんだ。

敷地に植わるパパイヤを取るTETの息子。

海の中に脚立を立てフロント・フリップで遊ぶローカル。
野外キッチンでいざキミが譲ってくれた魚を見て、メニューを決めるTETの息子、刺身とアクアパッツァ。
ウロコを剥がし、内臓肝を取り出し、母なる自然界が与えてくれた宝物を扱うような手つきでキレイに洗う。包丁を握り、自信に満ちた手捌きで刺身が切られ、それを妹たちが素敵に盛り付ける。アクアパッツァも見事だ。
キミは、大きな魚をまるでトロフィーかのように撃ち、清掃や捌きを他人に頼んでフィレの部分だけ使う人たちを軽蔑する。「狩は魚を殺した時に終わるのではないの。敬意を持って捌き、調理し、その魚の食べられるところがなくなるまで食い尽くす。そこで初めて狩が終わるのよ」と。
正にTETの息子が作った刺身は一瞬で消え、アクアパッツァも大盛況、美味しさのあまり地元の子どもたちが指で骨の周りの身を食い尽くす状況となった。そしてその魚の命は、みんなの「おいしーー」という気持ちに変貌したのであった。

バリ島でのディナー。キミが手に持つ骨はその日仕留めたフィッシュオブデイ。
Photo Justin Turkowski
現代に生きる僕たちの多くが、社会的地位や仕事の地位、お金や物質的なもの、周りの人からの評価を求めている理由があると思うんだけど。それは、この心の中にある穴を埋めようとしているからだと思うんだよね。
でも、その同じ穴は、火の作り方を知っていたり、ポールスピアのような原始的な方法で食べ物を手に入れることができたり、庭に作った畑で野菜が育つのを見守ることができる様になったときにも埋めることができると思うんだよね。自分で食べ物を得ることは、自分自身を感じることでもあり、地球への帰属意識を感じること。僕たちは、そういうことが自分たちの存在意義であることを忘れてしまったのかもしれないってキミから習うことができたと思うんだ。

ホワイトサンドビーチでのサンセット。キミと夫のジャスティンと二人の子。
RipZinger / Photographer, world traveler
東京都港区生まれ

Photo Justin Turkowski
国際的な環境の中でスケーターとして育つ。
まだ日本で外国人を稀に見る当時からグローバルな交流を日常としながら写真家として国内外で活動を開始。 「自分のコンフォートゾーンから出て人生をより豊かなものにすること」をインスパイアに会う人たちとの体験、見てきた世界を写真におさめ、「世界は広い」「旅をして自分の世界を広げよう」というメッセージを発信。
都会育ちのジャンクフード愛好家だったスケーターが、世界を飛び回り、自然に身を投じ行った先々でのアクティビティを通し今に至る。
健康研究家。
ポップアップで健康食やマッサージなどで人の健康意識を促進することをモットーに活動。サーフィンとの出会いは意識革命ともいえるほどの出会い。
Kimi Wener/Spearfisher Women
キミ・ワーナー
ハワイ・マウイ島出身
幼い頃からフリーダイバーである父と共に海に出ることで、自然が自分たちにどのような役割を担っているのか、人間が自然にどのような影響を及ぼすのかを理解し現在では持続可能性を元に世界規模で健康的な自然との共存を目指し活動中。
USAナショナル・スピアフィッシングチャンピオン、シェフ、環境活動家であり母。
地球環境を考慮したブランド「KEEP WILD CO」を運営。
夫は写真家のジャスティン・ターコウスキー。