My Life is This Life
ごめんねと愛してるは、
戸惑わずに。
Interview with Arvie Gimeno
Albino & Pretoを手がけるアーヴィに、子どもや仕事と歩む日々について聞きました。

グアムで生まれ育ったアーヴィは、現在LAに住み、生活の一部である柔術をモチーフにした日常着を手がけるAlbino & Pretoを15年近くやっています。 彼は、島育ち、柔術マスターとしてのたくましい体つきとは反対に、誰よりも柔和な人柄で、ひとつひとつの仕草や言葉に思いやりが溢れています。 どんな価値観や人生観を大切にして日々を生きているの?
そんな問いを出発点に、生まれ育った環境のこと、2人のお子さんや仕事との向き合い方などについて、来日中の彼に聞きました。


まずはアーヴィ自身のことから。小さい頃はどんな子どもでしたか?

日常的に熱中していたのは、ストリートファイト。僕の育ったグアムの村では、それが自分を認識してもらうための手段であり、成長のプロセスに欠かせない学びだったんです。だから、誰もが自分なりの戦い方を知っていました。柔術をはじめたのも、その延長ですね。それからもうひとつ、心を奪われたのは、全盛期のマイケル・ジョーダン。みんなと一緒で、バスケ少年でした。フェラーリ・テスタロッサに惹かれるのも、オークリーが好きなのも、ホワイトソックスを愛用するのも、ぜんぶジョーダンの影響です。子どもの頃見ていたものが、自分のスタイルをつくりあげるって本当だね(笑)。ヒップホップにも夢中でしたが、当時はインターネットがなかったし、グアムはアメリカ本土より数ヶ月遅れてカルチャーが到着するから、常に情報に飢えていました。でも、それが逆にいいことでもありました。“もっと知りたい!”と思う気持ちは毎日を豊かにしてくれるから、その好奇心に育ててもらった気がします。

お父さんお母さんは、どんな人たちですか?

愛情を言葉ではなく行動で示してくれるタイプ。言ってしまえば、口下手な両親です。世代の特徴もあるのかもしれません。この間も、僕の誕生日にFaceTimeをしてくれて、ハッピーバースデーの曲をプレゼントしてくれたんだけど、“I love you”とは別の方法で大切に思っていることを表現するのが両親らしいなと感じました。子育てには厳しくて、積極的にいろんなことを学ばせようとしてくれたと思います。でも、僕はラフキッズだったから全然言うことを聞かなくて、よくお尻を叩かれてたかな(笑)。

アーヴィは子どもたちに、“I love you”と伝える?

親には言われたことはないけれど、言葉にするのはとても大事だと思っているから、僕は意識的に伝えるようにしています。そう思ったきっかけは、子どもたちが学校へ通うようになったことかな。毎朝、学校の準備やら時間に追われて、ストレスフルな心持ちで一日がスタートしている様子だったから、day careとして言いはじめたんだ。車で学校に送り届けるんだけど、降りるときに必ずハンドシェイクして、お互いに“I love you”と言って別れるのがルーティーン。そうすることで、一日を迎える準備が整うだろうし、“feeling blessed(大切にされている)”と安心して過ごすことができると思うよ。

逆に、言わないようにしていることはある?

“これをやったらいいよ”とか“これを着たらいいよ”とか、親としての価値観を押しつけすぎたり、壊れたレコードみたいに何度も同じことを言わないようにしています。これもきっかけとなったエピソードがあってね。長男が4歳のとき、僕のエゴで柔術を習わせようとしたら、“パパの思いどおりにさせようとしないで!”と反発されて一度は断念。だけど結局2年後にまたやりたくなったみたいで、自発的に再開したっていう出来事があったんです。ああ、子どもは親の行動をよく見ていて、いつの間にか吸収して自力でやるようになるんだな、無理に言わなくてもいいんだなと実感させられたましたね。たしかに今の自分の中にも、無意識のうちに両親の人生が刻み込まれているのがわかる。だから、親だからって親でいようと意気込みすぎず、子どもの前でもありのままでいるようにしています。

どんな部分に、子育ての大変さを感じますか?

インターネットがあることで、子どもたちが情報を得るのが早いことかな。今の子たちは自分が小さい頃よりもいろんなことを知っていて、教える余地さえないものだってありますから。今の時代の教育は、ほんとうに難しいよ。だから、直接教えてあげるんじゃなくて、自分のライフストーリーを共有して、彼らが必要なときに思い出して、自ら教訓を得られるようにしてあげたいなと思っています。種を蒔いてあげる感じですね。あとは、見守ってあげるだけ。結局のところ、子どもたちにとっての一番の喜びは、親がちゃんと見てくれているかどうかなんだと思います。そして、誇りに思っていることが伝われば十分。自分の子ども時代を振り返っても、そう思うかな。

子どもと過ごすなかで、どんな学びがあると思いますか?

学びはいつも、教えと同時に起きます。僕は子どもたちに、“don’t worry(何も心配しなくていいよ)”、“just enjoy your life(とにかく楽しんだらいいよ)”とよく言っているのですが、そう言っているそばから、自分自身にこそ必要な言葉だなと気づかされる。子どもたちにいい未来をわたすために一生懸命働いているけれど、大人ってすぐ、仕事の忙しさや大変さのなかで楽しむことを忘れてしまいがち。そんなとき、子どもたちに向けたシンプルな助言が、スローダウンすることを思い出させてくれるんです。

子どもがいることで、仕事への向き合い方に変化はあった?

180度変わったよ!
以前までの仕事は、自分を認めてもらいたい一心で取り組んでいたけど、いまは支えてくれる家族のために頑張っています。家族との時間をリラックスして過ごそうと思えばこそ、仕事も効率的に進みますから。子どもたちは日々成長して、新しいことを学んで常にニューレベルになっていく。思春期になれば親から離れていく。だから、その一瞬一瞬を逃したくないんです。

いい親ってなんでしょうね。

それは難しいですね。一生わからないと思うな(笑)。ただ、子どもたちが学校の授業で聞いていることは、ガイダンスでありディレクションであり、本当の人生ではないから、学校教育を施すことで満足する親になってはいけないですよね。山あり谷ありの人生に備えられるように、いろんな経験をして学べる環境をつくってあげるのが、親の役割のひとつじゃないかな。とはいっても、子どもには子どもらしく過ごしてもらいたいから、厳しくプレッシャーを与えたりはしたくない。失敗もつきものだから、“enjoy the process(うまくいかない過程さえもエンジョイしてね)”と常々子どもたちには言っています。

子どもにとって、どんな存在でありたいと思いますか?

父親というよりも、親友でいてあげたいですね。よくないことをしたら叱るのは大事だけど、一方的に教育するだけじゃなくて、基本的には人間同士の付き合いをしたい。子どもたちが僕と話したいと思ったときに、気兼ねなく話せる存在でありたい。だからいつでも、“I’m always there, I got your back(いつでもそばにいて、どんなときも味方だよ)”と伝えてあげることがなにより大事だと思いますね。話さなくても、同じ空間にいることがそう感じさせてあげられることもあるような気がするので、仕事中に子どもたちがオフィスに来ても、そのままいさせてあげることも多いですよ。

ひとりの大人としては、どんな人でありたいと思う?

家族だけじゃなく、友人に対しても“I love you”をちゃんと伝えられる人でありたいですね。あと“sorry”も。いろんなことが目まぐるしく変わって、目を閉じて開けたら、明日には何が起きているか誰にもわからない。だから、“Don’t wait to say sorry, don’t wait to say I love you(ごめんねと愛してるは戸惑わずに言おう)”。シンプルなんだけど、これが意外と難しい。日本はsorryカルチャーだけど、アメリカはあまり言わない傾向があるし。おろそかにして過ごしていると、人間はどんどんひねくれてしまうと思うよ。

人生に、テーマってある?

そうだなあ。仕事に励んでクリエイティブであり続けながらも、ストレスフリーに生きることかな。僕の父は働きづめで、家でもヘトヘトに疲れている姿をずっと見てきたから、忙しくしつつも人生を楽しむバランスを探し求めるようになったんです。方法は山ほどあると思うけど、“Tomorrow is tomorrow(明日はまた新しい日)”だと思って、うまくいかないことが起きても必要以上に落ち込みすぎないようにしています。少なくとも何かにトライして、昨日よりも前進しようとしているだけで、人は成長しているんじゃないかな。

アーヴィが次世代に残したいものは何ですか?

次世代に残せるのは自分自身のことではなくて、僕がこれまで家族や友人と共有してきた物語なのかな。この世を去ってみんなが僕のことを思い出すとき、僕がどのように人を助けてきたかとか、一緒に何かをつくった瞬間を覚えていてくれたら嬉しいですね。特に、ブランドのために積み重ねてきたものに関しては、見る人たちの独自の見解や声明が吹き込まれて、形を変えながら次世代にこんこんと受け継がれてくれれば本望です。

ディレクターの西山と、アーヴィの友人で西山のいとこのショーンと。

Albino & Preto

アルビノ&プレト | アーヴィ・ヒメノが2011年にローンチした、柔術とライフスタイルの融合をコンセプトに掲げるブランド。 ポルトガル語で、ALBINO=白、PRETO=黒という意味。 白帯からいつかは黒帯に、という思いも込められている。
albinoandpreto.jp
@albinoandpreto

Arvie Gimeno

アーヴィ・ヒメノ | 1983年グアム生まれ。カリフォルニアの寿司レストランでシェフとして働いていた頃、 仕事に忙殺されていた日々を整えるために2004年から柔術のトレーニングをスタート。 争うのではなく、問題解決のために忍耐することや、相手をリスペクトすることの大切さを柔術から教わり、 そのスピリットを洋服に落とし込む形でAlbino & Pretoを設立。 最近は、TAPANG®というアパレルブランドも新たにスタート(angtapang.com)。 アーヴィのルーツであるフィリピンの公用語のひとつであるタガログ語で、“勇敢”という意味。

text: Shoko Yoshida

photo & edit: Tamio Ogasawara