Lucie & Luke Meier

Luke Meier(以下、LUKE)
徹から僕らに質問するインタビューだけど、僕からもひとつ聞かせて(笑)。今までつくった服はどうやって保存しているの? 毎シーズン1点ずつ残すのか、いくつか絞っているのか、 それともデジタルアーカイブにしたり?
西山徹(以下、TET)
DESCENDANTは企画で再利用していて、30 年近くつづけている WTAPS は写真でアーカイブしているよ。ふたりはどうしてる?
Lucie Meier(以下、LUCIE)
プライベートなものは多いけど、仕事のものはそこまで正確に保存していないかな。でもそういえば、JIL SANDERでは私たちがはじめる前のアーカイブが残っていなくて驚きました。だからこそ自由にできた部分もあるので結果的にはよかったけれど、ものって難しいですよね。素敵な反面、置いておくにはかさばるし、スペースも必要で、プリズンみたいに自分を縛るものにもなりかねない。
LUKE
クリエイティブな側面でいえば、現物を見ないほうがいい場合もある。記憶の中では、つくられた時代の雰囲気や当時自分が好きだった気持ちものっかってノスタルジックな空気感をまとっているから、意外と現物よりもいいものになっていたりする。ときに、“The memory is better than the thing itself(記憶は実体に勝る)”かも。
LUCIE
人の記憶では悪いことは浄化されて、いいことだけが残っているものですしね。

TET
たしかにそうかもね。じゃあ、また僕からの質問に戻っていい?(笑) 娘さんが生まれてから、仕事の仕方って変わったりしたかな?
LUKE
親になる前は時間を気にせずダラダラと働けたけど、今は時間が貴重になって、自然と効率的になった。前なんて、夜中3時にアイデアが浮かんで、そのままスタジオ直行、朝まで仕事する、なんてこともしょっちゅうだったけど、今は娘と自宅でご飯を食べるために、毎日18時には仕事を切り上げる。けれど、作業時間が減った=パフォーマンスが落ちたわけじゃなくて、むしろ判断が早くなって、仕事の質が高くなったとさえ感じているよ。
TET
僕も子どもが小さいときは、まったく一緒だったなあ。それじゃあ、子どもが生まれてから仕事のアウトプットに変化はあった?僕はDESCENDANTを新たに立ち上げたりするほど、子どもたちの存在が仕事に影響を与えるのは避けられないとさえ感じたけれど。
LUKE
もちろん。具体的に言い表すのは難しいけど、子どもができたことで、世界や日常に対する感じ方が根本から変わったから、それが表現にも比例していると思う。そもそも僕らディレクターの仕事って、“こうしたい”“こう感じる”みたいな自分たちの意思や視点を形にして伝えられる“自己表現の仕事”だし、それらは、自分の気分や世界の空気、周りの人たちの状態といった環境に支えられてできているもの。だから、親になった経験が表現の一部になるのは、ごく自然。“これを伝えよう”と決めなくても、自然と滲み出ちゃっていると思う。

LUCIE
抽象的だけど言葉にしてみるとしたら、「子どもたちが生きる未来のことを考えて表現する」ようになったかしら。それも、無意識のうちに。
LUKE
そうだね。ここ数年で両親が他界したことも相まって、自分がいなくなったあとの娘のことを考えるようになった。世界はどうなっているのか、そこで娘はどう生きるのか……。若い頃は、社会全体のことにはまるで興味なくて、自分のまわりの小さな世界のことしか考えなかったけど、子どもをとおして未来に意識が向くから、どうしても地球環境や世界情勢に気を配らざるをえないなと。
LUCIE
服をつくる私たちが地球のために正しく賢くいることを考えたら、無駄なものはつくりたくないですよね。それがはっきりとわかる表現でなくても、「意味あるものをつくろう」とする意識がまずは大切なんじゃないかな。

LUKE
常に意識的でいたいよね。しかも、それって今では新しい“アンダーグラウンド”な生き方だと思う。だって、未来について考えようとしない人が大半だから、“Let me make things better(何かをよくしたい)”と思うこと自体が反主流的で、ずっとずっと反抗的。つまり、未来について考えれば考えるほど、カウンターカルチャーに近づいていく気がします。
TET
すごくわかる。STUMPをはじめた根本にも、まさにそんな気持ちが込められています。僕たちは住む場所も言語も違って、普段からこういう話をしているわけではないのに、思考がリンクしているのがおもしろいね。
LUKE
世界を理解しようとするカルチャーは、国籍も環境も越えていく。それに、昔を懐かしむのではなく、“明日”に目を向けているのがいいことだと思う。僕たちが過去にしてきたこと、興味を持ってきたことが今の視点をつくってきたけれど、親としてもクリエイターとしても、今度はそれを未来のために使っていくときなのかもしれません。
LUCIE
そしてその未来は、いつもポジティブに考えたいですね。

Luke Meier
ルーク・メイヤー|カナダ・バンクーバー生まれ。ルーシーいわく好奇心が旺盛で、常に新しいものを探し、調べ、それらを服づくりに落とし込んでいる。
Lucie Meier
ルーシー・メイヤー|スイス・ツェルマット生まれ。“身につけたときに少しでも前向きな気分になれて、自分の味方になってくれる服“を目指して仕事に励んでいる。
photo: Kisshomaru Shimamura
text: Shoko Yoshida
edit: Tamio Ogasawara